一戸建て住宅の省エネ性能説明義務化でどう変わるのか

2021年4月から省エネ性能の説明義務化がはじまります。

当初は(2014年頃)、『2020年から省エネ住宅の適合義務化が始まる』という話があったため、建築業界は戦々恐々としていましたが、小規模工務店の反発等により、適合義務化ではなく、説明義務化に決まりました。

この説明義務化で住宅業界がどのように変わっていくか考えていきたいと思います。

省エネ住宅をなぜ進めるのか

進める理由は、ご承知のとおり地球温暖化対策です。

2016年に『パリ協定』が発効され、日本でも温室効果ガス排出量を2013年比で2030年に26%削減することが目標になっています。

パリ協定や地球温暖化については、こちらの記事で詳しく取り上げています。

こどもたちの未来のために住宅ができること【ZEH、省エネ】
住宅が地球環境に及ぼす影響は大変高いです。わたしたちがこどもたちの未来のために何ができるか。住宅が担う役割を一緒に考えていきましょう。建築会社選びの参考にしてただければ幸いです。

地球温暖化に対する、日本の住宅産業の責務は大変重いです。

地球温暖化に対する住宅部門の排出量と削減目標がこちらです。

住宅・建築物分野で40%、家庭部門で39%の削減目標です。

これには、エアコンや冷蔵庫等の家電製品自体の削減も入るため、建物単体では比較できませんが、住宅が担う責任の重さを感じ取ることができます。

『パリ協定』の目標である、2030年の2013年度比26%削減は、住宅の省エネ化無くして、達成できないと言えるでしょう。

住宅の法制度

では、日本の住宅は、環境についてどれだけ配慮されているでしょうか。

日本の建物の最低基準を定めている、建築基準法では、窓の種類や断熱材の省エネに関して規定がありません。

1980年に「エネルギーの使用の合理化に関する法律」の中で、住宅における推奨の基準(昭和55年基準)が初めて法律化され、その後、1992年(平成4年基準)、1999年(平成11年基準)、2013年(平成25年基準)と改正してきました。そして、2017年に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が建築物として独立した法律が制定され、平成28年基準が現在の基準になります。

しかし、基準はあっても、規制は一切ありません。

前述の記事にも書いていますが、実は、日本では、断熱材や窓が一切なくても建築ができるのです。※防火地域等一部例外があります。

そのため、省エネについては、建築会社や建築主の判断になります。

一方、海外では、欧米や韓国、中国など多くの国で規制がされています。基準についても、日本の一般的な新築住宅で最も多く用いられているアルミサッシペアガラスの熱貫流率4.65W/㎡・Kに対して、1.0~3.0W/㎡‣K程度(低い方が性能が高い)と、諸外国の方がより厳しい規制となっています。

長期優良住宅で多く用いられている熱貫流率が、2.33W/㎡・Kですので、その程度が海外での標準仕様と言えます。

長期優良住宅についてはこちらの記事で。

長期優良住宅のメリットとお得度【年間1000件を審査した経験から】
長期優良住宅にした場合のメリット・デメリットを、自治体で年間1000件審査していた筆者が検証します。

住宅の断熱性において、弱点となるのは、窓です。窓の基準が住宅全体の断熱性能を決めると言っても良いくらい重要なもので、窓の性能の差が日本と諸外国との差と言えるでしょう。

2021年4月から説明義務化スタート

そうした中、2021年4月から省エネ性能の説明義務化がスタートします。

文頭でも書いたように、本来の予定では、適合義務化の予定でした。地球温暖化、そして世界の常識を考えれば、適合義務化は行わなければならなかったことだと言えます。

適合義務化を見送った理由

では、なぜ、見送ることとなってしまったのか?

さまざまな理由が考えられますが、国があげている主な3点を説明します。

参考:社会資本整備審議会資料

①適合率が低い

住宅(300㎡以下)のエネ基準の適合率が、

62%(平成29年)
出典:改正建築物省エネ法の各措置の内容とポイント

とまだまだ低い状況なのが見送った主な要因です。

ハウスメーカー(住宅シェア率40%)は標準仕様のところも多く、ほぼ全てが満たしていると言えます。

逆に、地域の工務店(住宅シェア率40%)の半分以上が基準を満たしていないため、62%という結果になったと考えられます。

ただ、この適合率を上げるために適合義務化をを行うので、低いからこそ意味はあると思いますが、中小工務店からの反発が強かったものと思われます。

②建築士の理解度が低い

建築士の省エネ計算の習熟状況を以下に示します。

出典:改正建築物省エネ法の各措置の内容とポイント

約半分の建築士が省エネについて、『計算できない』という結果(平成29年時点)でした。この結果では、住宅産業に大きな混乱を招きかねないということから、適合義務化は見送られ、説明義務化になりました。

私としては、大変衝撃を覚え、この結果に落胆しました。

たしかに、省エネ計算に否定的な設計士も多く、請け負わない建築士がいるのも事実ですが、勉強すればだれでも計算できますし、それほど難しいものではありません。

どこの業界も、高齢化が進み、建築士の高齢化も進んでいます。70代の建築士にこれから新たに覚えさせるのは難しいとの判断があったかもしれませんが、地球温暖化を抑えるためには、適合義務化は絶対に必要だったと私は思います。

省エネ計算も全ての建築士が理解している必要もありません。

建築の設計には、以下の3つの分野の設計があります。

①意匠設計(デザインを決める)

②構造設計(建物の強度を計算)

③設備設計(給排水や空調等を計算)

建設会社には、それぞれの分野に建築士がいて、大規模建築などの設計を行います。それに対して、戸建て住宅では、全ての分野を一人の建築士が設計をすることが多いです。

住宅においても、それぞれの知識、技術を活かして分業する体系が確立すれば、適合義務化により、住宅業界をさらに活性化させることができたと思いますので、見送られたのは大変残念でたまりません。

③建築主の理解が得られない

適合義務化によって、断熱材の仕様や窓の仕様が上がり、工事費がアップすることの理解を建築主から得られないということが見送った理由のひとつとなっています。

しかし、工事費は上がっても、性能が上がることにより光熱費が下がります。30年間で考えれば、工事費のアップは補える可能性も十分にあり、生活もより快適になります。

建築主の理解が得られる努力と設計士の地位の確立も大きな課題だと思います。

制度の概要

現行制度と改正制度の比較がこちらです。

※この章の図は特記なき場合は全て改正建築物省エネ法の各措置の内容とポイント(国土交通省)から引用

大規模建築物から戸建てまですべての建築物に省エネ法は適用されます。

これまでに、大規模建築物から順次適合義務、届出義務と進んできました。

2021年4月(右側の改正法)からは、一戸建て(表で言う右下の部分)では、適合の努力義務となり建築士から建築主への説明義務が始まり、トップランナー制度として、年間着工棟数300戸以上の住宅会社においては、平成28年基準よりさらに厳しい基準(トップランナー基準)の適合義務化となりました。

トップランナー制度については、供給するすべての住宅で平成28年基準の20%削減ということで、企業によっては現状では厳しい規制かもしれませんが、企業努力で頑張ってもらうしかありません。

また、説明するための計算をしないといけないため、省エネ計算をできる建築士が半分程度では、混乱を招く可能性があります。

そこで、いままでよりさらに簡便な計算方法を示し、昨年から全国各地で説明会を開いています。ただし、コロナの影響で2020年度からは説明会を開けずにいるため、今後の動向が心配されるところです。

一戸建ての手続きの流れ

説明は、工事着工前に、適合しているかどうかを建築士が建築主に説明をします。適合していなければ、何を変えれば適合するかを説明し、適合させるかどうかの判断を確認します。

説明を希望しない旨の書面を建築主が表明すれば、説明が不要となりますが、建築主にとっては、基本的にメリットはありませんので説明は求めるべきです。ただし、どうなるかはまだわかりませんが、計算の説明を省けば割引く業者も出てくる可能性もありますので、その際には慎重な判断が必要だと言えます。

適合の可否について、以下のような説明書を書面交付して完了です。

省エネ基準

省エネの基準は以下の2つの計算をして、基準を満たす必要があります。

①外皮

外皮平均熱貫流率(UA)と平均日射熱取得率(ηA)を算出する計算です。壁や窓などの開口部などの各部位の熱の逃げやすさを計算し、建物の空気に接する面積(外皮面積)で割ることで平均の割合を出します。その数字が地域に応じた基準以下かどうかで判断します。

②1次エネルギー消費量

外皮計算の数字と照明や給湯等のエネルギー消費量を計算して、基準の消費量より少なくなることを確認します。

省エネ基準の計算手法

計算手法は、以下の3つ方法が定められています。

①標準計算

国が定めた標準計算プログラムを使って算出する最も詳細の設計

外皮計算イメージ

1次エネルギー消費量イメージ

②簡易計算法

標準計算と仕様基準の中間に位置するもので、建築研究所が公表しているWebプログラムを使った住宅モデル法

Webプログラム⇨⇨⇨こちら

外皮計算イメージ

1次エネルギー消費量計算イメージ

③仕様基準

部位や設備の仕様を決めることで、基準を満たすか判断すします。安全側に仕様を決定しているため、標準計算や簡易計算より断熱性能は高くなる傾向があります。

詳しくはこちらを参照してください⇨⇨⇨仕様基準(JFEロックファイバー)

外皮の仕様基準の考え方

出典:省エネ住宅・建築物の整備に向けた体制整備(住宅性能評価・表示協会)

1次エネルギー消費量の基準の考え方

出典:省エネ住宅・建築物の整備に向けた体制整備(住宅性能評価・表示協会)

計算手法の選択

計算方法には、それぞれの特色があります。

計算の難易度(手間の多さ)で比べると、

①標準計算 > ②簡易計算 ≒ ③仕様基準

設計の自由度で比べると

①標準計算 > ②簡易計算 > ③仕様基準

精度(工事費を抑えられる)で比べると、

①標準計算 > ②簡易計算 ≒ ③仕様基準

となります。

標準計算は、自由度が高く最も複雑ですが、精度も高く、材料に無駄がありません。

簡易計算は、部位ごとに計算をする手間がありますが、仕様基準も開口部比率を計算する手間があります。そのため、手間という意味では、どちらも同じ程度です。

また、簡易計算の方が、部位ごとに断熱材の厚みなどを変えられるため、仕様基準より設計の自由度は高いと言えます。

精度については、仕様基準と簡易計算では住宅の状況に応じて変わるため、どちらが精度が高いとは言い切れません。

精度が高いほど断熱材などを抑えることができ、建築費も安くできる傾向があります。断熱性能は、安ければ良いというわけではありませんが、状況に応じて計算方法の選択が必要となります。

👇こちらで詳しく検証していますので参考に。

省エネ性能の計算手法による断熱仕様の差をモデルケースで検証
2021年4月から省エネ性能の説明義務化が始まります。省エネ計算に示されている3つの方法によって、どう変わってくるのかモデルケースを用いて検討します。

除外規定

真壁構法(柱を見せた工法)で、土壁もしくは落とし込み板壁の断熱材を入れられないような住宅を『気候風土適応住宅』と呼び、一定の条件を満たせば、外皮基準から除外され、1次エネルギー消費量については緩和されます。

真壁構法についてはこちらもご参考に

家の内装のイメージを決める真壁と大壁とは【それぞれのメリット】
真壁と大壁は、内装のイメージを大きく変えます。その特徴をしっかりと理解して、住宅の計画にお役立てください。

ただし、愛知県ではまだ土壁を使った新築住宅もありますが、土壁や落とし込み板壁で施工する新築住宅は、多くの地域ではほとんど使われていないのではないでしょうか。

当初は、適合義務化だったため、土塗り壁や落とし込み板の建物が建てられなくなってしまうことが危惧されていましたが、説明義務と努力義務になったため、建てられないということがなくなりました。

しかし、国としても、省エネ基準適合の努力義務を課す限り、伝統的構法を否定することになりかねないため、除外したのではないかと予想されます。

何が変わるのか

改正は住宅産業に何をもたらすのか。変わる可能性がある6つのポイントを説明します。

①省エネ住宅化が進み、建築費が上がる

説明義務化と言えども、新居が不適合という書面を出されるのは、建築主にとって抵抗があります。不適合となると、中古住宅としての流通も不利になり、不利益を被る可能性もでてきます。

それらの理由から、省エネ住宅化は進んでいくと考えられます。そうすれば工事費は当然アップし、設計手間も増えるため設計費もアップする可能性があります。

建築費が上がるのは、地球温暖化対策としても致し方ない投資だと思います。

また、冷暖房費等ののランニングコストは抑えられるため、長い目で見れば建築主に大きな負担となるわけではありません。

②高齢建築士が引退し、建築士の世代交代

建築士の習熟度の現状は、約半分が省エネ計算ができません。特に一人でやっている設計事務所の習熟度はさらに低くなっています。

70代を迎える建築士も多く、新たに覚えないといけないなら引退するという設計士も多く出てくる可能性があります。

設計の手間が増えた分の設計料をしっかりともらって、外注に出せれば問題ないですが、住宅産業においてそこまでの位置づけにできるかはまだ未知数です。

やめる建築士が増える可能性は多いにあります。

③設備設計の地位の確立

いままでの一戸建て産業は、設備設計の立ち位置はほとんどなく、電気業者や給排水業者に任せていたのが現状です。

説明義務化で、基本的には省エネの設計をしなければならなくなったため、設備設計を専門とする建築士も増えてくると思われます。

現時点でも、大規模建築物の適合義務化となっているため、設備設計の地位が上がっています。

今後、一戸建て産業についても、省エネ計算の外注など、しっかりとした地位の確立が進んでいくことが望まれます。

④真壁構法で造る家が減る

真壁構法の場合、壁が薄く断熱材も薄くなり、省エネ基準を満たすには窓の性能を上げる必要があります。

断熱材を厚くするより窓の性能を上げる方が一般的にコストが高くなるため、真壁構法の方が大壁構法より、省エネ基準を満たすためのコストアップは大きくなると言えます。

①の理由により、省エネ住宅が進むことから、不適合を嫌い予算の関係から真壁構法で造る人も減る可能性があります。

⑤中小工務店の受注が減る

④の理由により真壁が減れば、中小工務店のメリットが減り受注が減る可能性があります。

また、建築主にとって建築会社を選択する際の検討項目が増えることとなります。より建築会社選びが高度になることから、さまざまなノウハウがあり安心感が高いハウスメーカーを選択する人が増える可能性があります。

中小工務店がどうなるかは、まだ可能性の話で全く未知数ですが、中小工務店にとって有利になるということはほとんど考えられないのではないでしょうか。

ただし、トップランナー制度により、大手ハウスメーカー(年間着工300戸以上)は、標準の基準より20%削減を求められるため、建築費の増が進む可能性はあります。

⑥太陽光発電や蓄電池の設置は進まない

太陽光発電や蓄電池を設けることで、1次エネルギー消費量の基準は簡単にクリアできます。

ただし、説明義務化では、それを理由に太陽光発電や蓄電池を設置する人はほとんどいないと思います。

本年度の売電価格をみても、一戸建て住宅の屋根に太陽光発電を設置するのは収益の観点から考えればかなり厳しい状況です。

適合義務化が見送られたことによって最も落胆しているのは、太陽光発電業者だと思います。適合義務化ならば、太陽光発電や蓄電池の設置は進んだと思いますが、説明義務化になったことで、設置は進まないと考えられます。

太陽光については、こちらの記事も参考に

【2020年】太陽光発電を住宅に設置すべきかがわかる一発方程式!
2020年、売電価格が大きく下がりました。さて、利益がでるのでしょうか?電気会社の営業ではなく、建築士の第三者立場から 検証してみたいと思います。20年利益の概算方程式も提案します!!

最後に

今後どうなる可能性があるのか述べましたが、正直実際にスタートしてみなければわかりません。

私たち建築士は、それを見据えて日々研鑽し、しっかりとした準備をしていくことが責務です。

この省エネ法の改正が、住宅産業において、より魅力ある産業につながり、そして、地球温暖化についても、子どもたちに明るい未来を届けられるものとなることを切に願います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました