省エネ性能の計算手法による断熱仕様の差をモデルケースで検証

一般の戸建て住宅でも省エネ計算が義務化させることを知っていますか?

2021年4月から省エネ計算の説明義務化がスタートします。

精度の概要やどう変わるかは、こちらの記事で詳しく説明しています。

一戸建て住宅の省エネ性能説明義務化でどう変わるのか
2021年4月から省エネ性能の説明義務化がはじまります。当初は(2014年頃)、『2020年から省エネ住宅の適合義務化が始まる』という話があったため、建築業界は戦々恐々としていましたが、小規模工務店の反発等により、適合義務...

建物を適合させるかどうかは、建築主(住宅を建てる人)の判断に任せられていますが、設計者は断熱材や省エネの計算をして、建築主に説明をしなければならなくなりました。※ただし、建築主と説明不要の書面を交わせば対象外。

大手建売会社(年間着工数150戸以上)の住宅と大手ハウスメーカー(年間着工数300戸以上)の住宅は、トップランナー制度ということで、他の住宅のさらに厳しい基準への適合義務になります。(建売会社はすでに義務化済み)

国が定めている省エネの計算手法は3つあります。

今回は、それぞれの手法によって、結果がどう変わってくるのか、考えてみたいと思います。

計算方法によって、工事金額が変わりますので、建築会社との工事費交渉の一つとして参考にしてください。

3つの計算方法

省エネ基準は、外皮と1次エネルギー消費量の2つを計算をして基準を満たす必要があります。

その2つの計算をする手法として、

①標準計算
②簡易計算
③仕様基準

の3つがあります。

詳しい説明は、こちらの記事へ ☆読んだら〈戻る〉で戻ってきてくださいネ※
⇨⇨⇨一戸建て住宅の省エネ性能説明義務化でどう変わるのか

外皮の計算手法の違い

外皮の計算では、計算手法によって、必要とする断熱材の量や窓の仕様等が変わります。

標準計算では、床面積や外壁面積などが必要で、形が複雑だった場合も、それに合わせて詳細に検討していきます。

一方、簡易計算と仕様基準は、面積や形などは関係なく、外壁や屋根、窓などの部位ごとの仕様のみで決定します。ただし、仕様基準については、開口部の面積に応じて基準値が変わります。

簡易計算や仕様基準の方が、余裕を持って数字が決められているため、基本的に標準計算より多くの断熱材などが必要となります。

建築会社によっては、標準仕様が簡易計算や仕様基準を満たしている場合も多いです。その場合は、一度簡易計算や仕様基準で書類を作成しておけば、名前を変えるだけで説明書ができますので、簡易計算や仕様基準をおすすめします。

1次エネルギー消費量の計算手法の違い

1次エネルギー消費量については、計算手法によって、結果は大きくは変わりません。

細かい設定より、エコキュートやLED、太陽光の有無などで適合するかどうかに大きく影響されます。

標準計算は、ぎりぎりの結果で何とか適合させよう詳細を入力する際に使うと考えて支障がないと思います。

説明義務化となった場合は、好みで選ぶというくらいで大丈夫かと思います。

現時点では、外皮計算は詳細設計を行い、1次エネルギー消費量は、簡易計算にするのが良いと思います。

私は、ホームズ君で計算をするので、そのまま標準計算で行う予定です。作業的にも、理解ができていれば1分も変わらないので、ソフトを変えるだけ時間の無駄となるからです。その程度の違いです。

では、平屋建てと2階建ての簡単なモデルケースを造り、基準ギリギリの設計をした場合、外皮計算において、計算方法によってどれだけ仕様が変わるのか検証していきます。

注意

今回の結果は、あくまでもモデルケースでの結果ですので、一概にすべてを比較できる結果ではありません。比較検証には、その都度検討する必要がありますので、参考結果としてお考えください。

モデルケース①平屋建ての場合

諸条件

階数:平屋建て
面積:11.83m×10.01m=118.41㎡
階高:2,900mm
構造:木造軸組工法
断熱:壁充填、天井断熱、床下断熱、基礎断熱なし
地域:東京都23区内(Ⅵ地域)

平面図

南東面パース

北西面パース

標準計算

ホームズ君を利用して、標準計算で算出します。

基準の外皮平均熱貫流率UA=0.87以下となるように断熱仕様を調整した結果が次のとおりです。

適合ギリギリの断熱仕様

天井:グラスウール16K 100mm(U=0.41)
外壁:グラスウール16K  50mm(U=0.77)
床 :押出ポリスチレン   45mm(U=0.76)
サッシ:アルミサッシペアガラス(U=4.65、η=0.63)

計算結果

外皮平均熱貫流率UA=0.87
冷房期平均日射熱取得率ηA=2.3

簡易計算(試行版)

建築研究所により、来年4月に実施するための簡易計算として試行版がホームページに公表されています。
⇨⇨⇨住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム

ただし、外皮計算については、入力ができても結果が表示されないようになっています。(※令和2年5月22日時点)

また、地域区分や構造によって計算シートを作ってエクセルで計算する予定だったようですが、エクセルはUPされず、なぜかPDFだけアップされています。⇨⇨⇨簡易計算シート(試行版)をダウンロードする

現在いろいろと試行錯誤して変更しているようで、プログラムについてさまざまな変更が今後もあると思います。ただし、計算方法が変わることはないと思いますので、PDFデータからモデルケースの場合の検証をしたいと思います。

上記簡易計算シートを使って、外皮を計算した結果が以下の通りです。

標準計算、仕様基準と比較するため2パターンの検証をしました。

断熱仕様①

天井:グラスウール16K 200mm(U=0.21)
外壁:グラスウール16K 100mm(U=0.46)
床 :押出ポリスチレン   75mm(U=0.46)
サッシ:アルミサッシペアLow-E(U=3.49、η=0.51)

計算結果①

外皮平均熱貫流率UA=0.82
冷房期平均日射熱取得率ηA=2.8

比較のため、標準計算と仕様基準と同一の断熱材として検証した結果です。調整ができず、UAに余裕が出る結果となりました。

断熱仕様②

天井:グラスウール16K 200mm(U=0.21)
外壁:高性能グラスウール16K 100mm(U=0.42)
床 :押出ポリスチレン   75mm(U=0.46)
サッシ:アルミサッシ遮熱複層(U=4.07、η=0.49)

計算結果②

外皮平均熱貫流率UA=0.87
冷房期平均日射熱取得率ηA=2.7

外壁に高性能グラスウールを使用することで、サッシの仕様を1ランク落とすことができ、基準ギリギリになりました。

仕様基準

仕様基準の考え方については、👇こちらで詳しく説明されています。
⇨⇨⇨住宅仕様基準の概要(JFEロックファイバー)

モデルケース①の場合の開口部比率を計算すると

(外皮等面積)=346.04㎡
(開口部の面積) = 21.6㎡

(開口部比率)=346.04/21.6=0.062

⇨(い)

出来るかぎり簡便な手法として、断熱材熱抵抗値で検討すると

断熱仕様

天井:グラスウール16K 200mm(熱抵抗値:4.44>4.0)
外壁:グラスウール16K 100mm(熱抵抗値:2.22>2.0)
床 :押出ポリスチレン  75mm (熱抵抗値:2.67>2.2)
サッシ:アルミサッシ単板(U=6.51、ηは規定外)

開口部比率を計算しない場合
サッシ:アルミサッシペアLow-E(U=3.49、η=0.49)

なお、土間については、以下の考えから断熱材不要。

出典:愛知県建築住宅センター資料

モデルケース①結果一覧

計算手法による違いをまとめたものが以下の表です。
断熱材は、天井、外壁をグラスウール16K(簡易②外壁は高性能グラスウール16K)、床を押出ポリスチレンとして共通比較
仕様基準②は、開口部比率を計算しない場合

  部位 標準計算 簡易計算① 簡易計算② 仕様基準① 仕様基準②
断熱材 天井 100mm 200mm 200mm 200mm 200mm
外壁 50mm 100mm 高性能
100mm
100mm 100mm
45mm 75mm 75mm 75mm 75mm
アルミサッシ 複層
U=4.65
η=0.63
Low-E複層
U=3.49
η=0.51
遮熱複層
U=4.07
η=0.49
単板
U=6.51
ηは規定外
Low-E複層
U=3.49
η=0.49
UA 0.87 0.83 0.87
ηAC 2.3 2.8 2.7

簡易計算①と仕様基準②は全く同じ結果になりましたが、簡易計算②として、外壁に高性能グラスウールを用いることで、サッシの仕様を1ランク落とすことができます。

結果としては、簡易計算より仕様基準の方が、窓の性能を下げることが可能になりました。仕様基準では、平屋建ての場合、開口部比率がかなり低くなるためと言えます。ただし、単板ガラスを新築一戸建て住宅で使うことは、現在ではほぼありえませんので、基準はない程度に考えてください。

標準計算では、簡易計算、仕様基準より大きく断熱仕様を低くすることができます。これは、平屋建てのシンプルな検証のため、最悪なケースを想定している簡易計算と仕様基準より差が出たと考えられます。

建築主の要望などで、断熱仕様を下げたい場合は、平屋建てのシンプルな間取りの場合は、標準計算とすることだけで大きく仕様を下がることが可能です。また、計算上は、仕様基準の方が簡易計算より窓の性能を下げられ、安く済ませられる可能性があります。

モデルケース②2階建ての場合

諸条件

階数:2階建て
面積:1F 10.01m×6.37m=63.76㎡
   2F 10.01m×5.46m=54.65㎡
延床:118.41㎡ 
階高:1F 2,900mm 2F 2,900mm
構造:木造軸組工法
断熱:壁充填、天井断熱、床下断熱、基礎断熱なし
地域:東京都23区内(Ⅵ地域)
開口部比率:0.10⇨(ろ)

1階平面図

2階平面図

南東パース

北西パース

モデルケース②結果一覧

モデルケース①と同様な手法で検討しまとめた表が以下のとおりです。
仕様基準②は開口部比率を計算しない場合

  部位 標準計算 簡易計算① 簡易計算② 仕様基準① 仕様基準②
断熱材 天井 100mm 200mm 200mm 200mm 200mm
外壁 100mm 100mm 高性能
100mm
100mm 100mm
75mm 75mm 75mm 75mm 75mm
アルミサッシ 遮熱複層
U=4.07
η=0.49
Low-E複層
U=3.49
η=0.51
遮熱複層
U=4.07
η=0.49
複層
U=4.65
η=0.63
Low-E複層
U=3.49
η=0.49
UA 0.86 0.83 0.87
ηAC 2.6 2.8 2.7

簡易計算は、形状や階数が変わっても結果は変わりません。

仕様基準は、開口部比率が変われば、サッシの仕様が変わります。

標準計算については、平屋に比べて高い仕様が必要になりますが、基本的には、簡易計算や仕様基準より断熱材の厚みなどを抑えることが可能です。

まとめ

平屋建てと2階建ての場合のモデルケースを2つ作成し、検証し、

標準計算 > 簡易計算 ≒ 仕様基準

の順番で、断熱性能の仕様を下げられる(工事費を抑えられる)ことがわかりました。

国は、同じ計算条件ならば同じ結果になるということで言っていますが、それはあくまで不確定要素がない場合ですので、計算方法によって、大きく差がでました。

仕様基準については、開口部比率の計算をすれば、開口部(窓、ドア)の性能を下げることが可能ですが、家全体の断熱性能を考えたときに、最も弱点となるのが、開口部です。開口部の性能を落とすと、計算結果は基準を満たしていても体感上は寒かったり結露の問題がでてきます。

計算結果だけで比較するのではなく、実際の体感なども建築会社や設計士と相談して断熱性能の検討をしていただければと思います。

3つの計算方法を比較しましたが、簡易計算法と仕様基準ならば、建築会社の仕様が決まっている場合、設計者としてはその都度計算する必要はありません。

省エネ意識の高まりから、断熱性能にこだわる建築会社や建築主も増えています。

標準計算にすれば工事費を抑えることは可能ですが、省エネ効果を高めれば、冷暖房費などの光熱費を抑えることができ、より快適な地球環境に良い住宅に住むことができますので、工事費だけでなく、さまざまな検証の中で、検討いただければと思います。

注意

なお、本検証結果は、モデルケースでの結果のため、一概にすべてを比較できる結果ではありません。比較検証には、その都度検討する必要があります。

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