近年、両親と同居する人も減り、近くに住んでいても、それぞれの独立した生活を望み別に家を建てたり、2世帯住宅にする方が増えています。
私も、平成元年に建てた実家に6年間両親と同居していましたが、こどもが増えたこともあり、昨年同一敷地内に別棟を新築しました。
それでも建替えや新築をせず、昔からの家に住まれる方も、もちろんたくさんいらっしゃいます。その多くの方が、
『昔からの家に愛着もあるし、新しい家も良いけどお金がかかるからな~』
『いまも別に不便していないし、あえて建替える必要はないかな~』
という気持ちではないでしょうか。
たしかに新築をするのには、かなりのお金がかかるのは事実ですし、建替えや新築をするには大変な労力が必要です。
しかし、建替えや新築をするメリットをどれだけ理解できているでしょうか。それは同時に、建替えや新築をしないデメリットでもあります。
本記事では、建築基準法の改正を踏まえながら、築30年の戸建て住宅は建替えるべきか?について考えていきたいと思います。
築30年の一戸建て木造住宅を建替えるメリット
では、まずは建替えのメリットを考えていきましょう。
①耐震性の向上
最大のメリットは、耐震性だと私は思います。建築基準法では、1981年と2000年に大きな改正があり、耐震性にとっても大きく影響しています。
1981年には、壁の量の基準と、壁のバランスの基準が変わりました。
簡単に言えば、1981年から壁の量が増えて、壁をバランスよく配置するようになりました。
この改正は、非常に影響は大きく、耐震診断の基準としては、この1981年の前か後かで判断が大きく変わります。特に、1995年の阪神大震災の際には、1981年の前後で倒壊するかどうかが顕著に現れました。
それに加え、阪神大震災では、1981年以降の住宅でも、一定数の建物が倒壊し、2000年に、柱と梁、筋交いをつなぐ金物の規定がつくられました。
また、2016年の熊本地震では、震度7の地震が2度も襲うという建築構造研究者にとってまさしく、想定外の地震が起きました。その際の最も被害が大きかった熊本県益城町の調査結果が以下になります。
図で示す通り、1981年以前の木造住宅は28.2%が倒壊し、1981年~2000年の木造住宅は8.7%が倒壊しています。
2000年以降についても、2.2%が倒壊していますが、調査結果として、建築基準法を満たした金物が入っていなかったり、地盤の大きな亀裂等によるものということで、法律には大きな問題はないと判断されています。
また、2000年を境に無被害の住宅も一気に多くなっていることがわかるかと思います。
耐震性を考えた場合、1981年以前の建物だけでなく、築30年程度(1981年~2000年の建築)の木造住宅においても建替えによるメリットは非常に大きいと言えます。
②断熱性の向上
断熱の基準も時代とともに大きく変わってきています。
ただし、断熱については、現在も基準はあっても義務ではないため、実際に建っている住宅の標準的なものがどういうものかは、その時に時代や地域により違い、仕様は建物によっても大きく違ってきます。
例として東京都での木造住宅の断熱基準は下表になります。
【東京都、木造住宅の断熱基準の標準仕様】
住宅の省エネルギー基準 | 旧省エネ基準 (S55基準) |
新省エネ基準 (H4基準) |
次世代 省エネ基準 (H11基準) |
ZEH ゼロエネ住宅 (2030年標準化目標) |
|||
等級 | 等級2 | 等級3 | 等級4 | – | |||
標準
|
UA値 | 1.67 | 1.54 | 0.87 | 0.6 | ||
ηAC | – | 3.8 | 2.8 | 2.8 | |||
断熱材 | 天井 | 種類 | 住宅用ロックウール(マット)(λ=0.038) | ||||
厚さ(mm) | 35 | 50 | 155 | 155 | |||
壁 | 種類 | 住宅用ロックウール(マット)(λ=0.038) | |||||
厚さ(mm) | 25 | 35 | 85 | 105 | |||
床 | 種類 | 住宅用ロックウール(ボード)(λ=0.036) | |||||
厚さ(mm) | 20 | 20 | 80 | 80 | |||
窓標準仕様 | 金属製サッシ + 単板 |
金属製サッシ + 複層(AS6) |
樹脂サッシ + LowE(AS12) |
- 出典:住宅事業建築主基準の判断のガイドブック(財団法人建築環境・省エネルギー機構)を修正、加工
- 昭和55年、平成4年、平成11年基準は、現在と考え方が違うが、当時の基準仕様を記載
- ZEHは仕様規定がないため、概ねの標準仕様を記載
表の詳細の説明はここでは省きますが、断熱材の厚さと窓の仕様が大きく変わってきているのがわかると思います。
また、国土交通省が試算した基準毎の年間冷暖房費は
無断熱に比べて、平成11年基準の場合8万1千円の冷暖房費の削減となります。電気代の削減だけでなく、暖かいことによる快適性も当然向上につながります。
また、住宅の断熱性において、窓が一番の弱点となります。窓の基準について、平成4年基準のアルミサッシ+単層ガラスは、熱貫流率Uwが6.5で日本の8割がこの窓を使っていると言われています。また、新築の7割がアルミサッシ+複層ガラスのUw4.65です。
※熱貫流率:窓から熱を通す割合で、低い方が性能が良い。
それに対して、欧米諸国や、中国、韓国でもほとんどの国で、Uw2.0以下を義務としています。
よく言われるのが、日本の一般的な窓は、欧米では、犬小屋でも使わないレベルだと揶揄されています。
断熱性能についても、冷暖房費の削減、環境配慮、快適性の面で建替えの大きなメリットと言えます。
③世帯と時代に合った間取りに変えられる
建替えることで子どもなどの世帯構成や時代に合った間取りに変えられることが大きなメリットです。
特に、キッチン周りは、対面キッチンやリビングの勉強スペースなど、は建替えの理由にもなります。
また、家事動線についても、新築になれば、それだけ無駄のない計画をつくることができ、家事をする人も変わるれば、考え方ややり方が違いますので、その人に合った対策も可能となります。
加えて間取りで気になるのが、収納です。最近では、ウォークインクローゼットと共に、ウォークインシューズクロークも人気です。
時代も変わり、生活スタイルも変わってきています。世帯構成や時代にあった間取りを取り入れることができれば、生活の質もぐっと上がるでしょう。
④光熱水費が抑えら、生活が便利に
新築にすれば、光熱水費も大きく抑えることができます。
さきほどの、断熱性能だけでなく、電化製品などの設備自体が世界の地球温暖化対策に対応するべく、企業努力により一気に消費電力が落ちてきています。
LEDは有名ですが、テレビや冷蔵庫、エアコンも10数年前に比べて消費電力は半分程度まで下がっています。
また、生活の利便性でも、お金はかかりますが、電動シャッターや自動水栓などを取り入れることができ、大変便利になります。
ただ、さまざまなところで、建替えすることで、これだけ光熱費が下がったなどの情報がありますが、太陽光発電がある場合は考え方が全く違うので注意が必要です。
太陽光発電設備で売電価格で利益があるから光熱費が安くなったという論調ですが、実際は、太陽光発電設備をつけるためにそれだけの投資をしているので、太陽光発電はまた別で考える必要があります。
しかし、今年度の売電価格は、かなり厳しいものとなりましたので、私としては、太陽光発電設備そのものが、金額面だけでいえば取り付けるメリットはないと考えています。
太陽光発電設備の記事はこちら👇
光熱水費自体は生活してみないと、どれくらいかかるかわかりませんが、電化製品は確実に電気の消費量は抑えられ、シャワーの節水効果も大きくなっています。
建替えは、光熱水費を抑えられるだけでなく、生活利便性向上に役に立てられます。
光熱水費の記事はこちら👇
日本の木造住宅の寿命は30年?
日本の木造住宅の寿命については、こちら👇で記事にしています。
日本の住宅は平均寿命は30年とも言われていますが、耐久性としては、それ以上に十分持たせることができます。
しかし、さまざまな理由から、多くの住宅で建て替えられています。
今後は、住宅を長く、かしこく使っていくことが求められていて、国としても平均寿命を長くすることと共に、空き家や中古住宅の活用を進めています。
まとめ
私の結論としては、築30年の一戸建て木造住宅は、
『建替えるべき』
と考えます。
住宅を長くかしこく使っていくことは重要ですが、30年前の基準を考えた場合、あまりにも多くの基準が新しい基準に変わっています。
いくら耐震補強をしていたとしても、地震大国日本では、大地震も大変心配です。安心安全な暮らしを保証するには、建替えるのが最も早道です。
また、断熱性についても大きなメリットがあり、結露についても新築の方が対策ができ、快適な暮らしをおくることができます。
あとは、資金計画が大きなネックとなりますが、こどもたちの将来に負担を残さないためにも、今の投資が重要です。30年前の住宅と違い、今の住宅は長期優良住宅を中心に、100年持たせる住宅です。
安心安全、快適な暮らしができ、子どもたちに負担を残さないためにも、低金利が続くいま、是非建替えの検討をしていただければと思います。